不育症における抗リン脂質抗体標準化の試み

唯一とも言える治療できる原因である抗リン脂質抗体は、たくさんの検査がありますが、その測定効果は証明されていません。測定効果とは、

  • その検査が陽性の時に抗凝固療法を行うと出産率が上昇する。

もしくは、

  • 陽性の時に無治療だと出産率が悪い。

ことをいいます。

平成23-25年度厚生労働省北折珠央研究班「不育症における抗リン脂質抗体測定法の標準化」において、11種類の検査法の測定効果を調べました(表4文献13)。

ループスアンチコアグラント(リン脂質中和法: StaClot社)陽性の場合、抗凝固療法を行うと出産率は良くなりました。しかし、残念ながら検査会社の都合により現在測定できなくなりました。リン脂質中和法(Welfen株式会社)の測定が可能です。

抗フォスファチジルセリン・プロトロンビン抗体IgG(北海道大学測定)も測定効果が確認されました。しかし、委託検査できる抗フォスファチジルセリン・プロトロンビン抗体の測定効果はわかっていません。

国際学会も推奨する抗カルジオリピン抗体IgG、IgM、抗β2glycoprotein I IgG, IgMの測定効果はありませんでした。これについて、産科的にはループスアンチコアグラントのほうが重要であるという質の高い論文が複数報告されています(文献12)。

最近、妊娠中に11種類の抗リン脂質抗体を調べ、その妊娠結果の異常を解析しました(文献14)。ループスアンチコアグラント希釈ラッセル蛇毒法は妊娠高血圧腎症の危険因子であり、抗β2glycoprotein I IgGは子宮内胎児死亡の危険因子であることがわかりました(図4)。そのほかの検査の効果はありませんでした。

さらに、出産率改善のために行ってきたループスアンチコアグラント(杉浦法、希釈ラッセル蛇毒法)、抗β2GPI・CL複合体抗体が陽性の患者さんの9.6%がその後の生涯に脳梗塞などの血栓症を起こしていることが明らかになりました(文献15)。

抗リン脂質抗体症候群は若年性脳梗塞、心筋梗塞を起こしうる難病です。ご自身が本当に抗リン脂質抗体症候群かどうか主治医に確認しましょう。

表4 国内で測定できる抗リン脂質抗体の測定効果
抗リン脂質抗体の種類 測定効果 文献
ループスアンチコアグラント リン脂質中和法(StaClot社) 抗凝固療法により出産率上昇 13
抗カルジオリピン IgG(Phadia社) なし 13
抗カルジオリピン IgM(Phadia社) なし 13
抗β2glycoprotein I IgG(Phadia社) なし 13
抗β2glycoprotein I IgM(Phadia社) なし 13
抗フォスファチジルセリン・プロトロンビン(aPS/PT)IgG(北海道大学) 陽性:無治療では出産率が悪い 13
抗フォスファチジルセリン・プロトロンビン(aPS/PT)IgM(北海道大学) なし 13
ループスアンチコアグラント 希釈ラッセル蛇毒法 血栓症を起こす 15
抗カルジオリピン・β2GPI複合体抗体(ヤマサ株式会社) 死産、妊娠高血圧腎症、血栓症をおこす 15,16
ループスアンチコアグラント 希釈ラッセル蛇毒法(Welfen) 陽性:無治療では妊娠高血圧腎症が多い 14
抗カルジオリピン IgG(Welfen) なし 14
抗カルジオリピン IgM(Welfen) なし 14
抗β2glycoprotein I IgG(Welfen) 陽性:無治療で死産が多い 14
抗β2glycoprotein I IgM(Welfen) なし 14
抗Domain I抗体(Welfen) なし 14
抗フォスファチジルセリン・プロトロンビン(aPS/PT)IgG(Welfen) なし 14
抗フォスファチジルセリン・プロトロンビン(aPS/PT)IgM(Welfen) なし 14
抗フォスファチジルエタノラミン IgG なし 22
抗フォスファチジルエタノラミン IgM なし 22
ループスアンチコアグラント(杉浦法) 抗凝固療法により出産率上昇、血栓症が多い 15,18
図4 11種類の抗リン脂質抗体関連検査の予後予測のための出生コホート