多因子遺伝
1990年から習慣流産と遺伝子変異の関係が研究されてきました。凝固系のみならず、免疫系、サイトカイン、内分泌系、代謝系の遺伝子多型と関与していることが報告されていますが、大規模な研究はありませんでした。
東京大学遺伝解析学との共同研究により、不育症に関する過去の遺伝学研究では類を見ない規模の解析を行うことで、HLA遺伝子がその発症に関わることを解明しました(文献43)。妊娠は母体と胎児という別個体が共存する免疫学的に特異な状態であることから、自己と非自己の識別において中心的な役割を果たすHLA分子の妊娠維持機構における重要性はこれまでも議論されてきましたが、本研究は大規模ヒトゲノム解析の面からそれを実証しました。不育症の病態における生殖免疫学の重要性に論拠を与え、その病態の理解が大きく進むことが期待されます。また、コピー数多型解析により同定されたCDH11は栄養膜を子宮内膜に固定する役割を果たす分子であり、原因不明の不育症の病態の理解を進展させることが期待されます。
この例が示す通り、原因不明不育症は多因子遺伝によるものと推定します(図11)。さらに大規模な解析が行われれば、多くの関連遺伝子が見つかると思われますが、ひとつひとつの遺伝子変異の影響は小さく、それを調べて治療すると出産率が上昇することは示されていません。
不育症患者さんの妊娠・新生児の予後
不育症の患者さんは「こんなに流産を繰り返して、私の子供は無事に生まれてくるのでしょうか?」と質問します。このClinical questionに対する答えを、エコチル調査を用いて調べてみました(図12、文献4)。不育症を経験した妊婦さんのお子さんは流死産の経験がない妊婦さんと比較して、先天異常、染色体異常、新生児仮死の頻度に差がないことが世界で初めてわかりました。男の子が少ないことが再確認できました。
不育症を経験した妊婦さんは、癒着胎盤、子宮内感染、血栓症を起こしやすいことが世界で初めてわかりました(文献4, 44)。流産、死産、早産、妊娠高血圧症候群を起こしやすい、帝王切開になりやすいことが再確認されました。前置胎盤、羊水過少症、胎盤早期剥離の頻度に差はありませんでした。
