夫婦どちらかの染色体均衡型転座

染色体はすべての細胞の核の中にあり、ヒトでは46本あります。約2.5万個の遺伝子を含んでおりこれによって親の形質が受け継がれています。染色体均衡型転座が習慣流産患者に高頻度に見られることは古くから報告されていました。転座とは染色体の2ケ所が入れ代わることをいいます。遺伝子の過不足はないのでそのひとは全く健康で正常な人ですから“異常”ではありません。しかし、卵、精子ができる時だけ遺伝子の不均衡(アンバランス)が起こります。アンバランスを生じた卵、精子は流産します。一定の確立で正常な卵、精子も発生するため出産できます。

男性の場合、男性不妊症の検査で見つかることがあります。

転座をもつ人がどれくらい流産するかについての報告は長い間ありませんでした。

私たちは1284組の反復流産患者の原因精査後の妊娠帰結を調べました (表5文献26)。相互転座を持つ夫婦47組中15組 (31.9 %) が診断後初回妊娠で出産できました。一方、染色体正常夫婦1184組中849組 (71.7%)が出産しており、均衡型相互転座をもつ夫婦は流産しやすいことがわかりましたが、累積的には47組中32組 (累積生児獲得率68.1 %)が出産できました。Stephensonらは初回妊娠65%、累積成功90%と報告しています(表6)。Franssenらは累積生児獲得率について転座の夫婦83%、染色体正常夫婦84%と報告しており、このグループは転座保因者の予後は正常群と変わらないと結論づけています(文献27)。この研究は症例数も多く、研究方法も優れており信頼性が高いものです。

先ほどの私たちの研究で、Robertson型転座保因者11人のうち7人(63.6%) が診断後最初の妊娠で出産しており、これは染色体正常の夫婦と差はありませんでした。FISH法を用いた精子解析で相互転座保因者の精子の46.9% が正常あるいは均衡型である交互分離を示し、Robertson型転座保因者では88%が交互分離を示しており、Robertson型転座は相互転座よりも出産率が高いことが推測できます。

私たちの2004年の報告は約15年間の臨床データであり、既往10回、13回流産歴をもつ患者を含んでおり、検査後に1回流産した後に受診しなくなった患者さんを“失敗“に含めているため、出産率が低くなっています。13回流産する患者さんは世界中を探してもそんなに多くないことをお断りしておきます。

日本の他施設共同研究では2382組の患者のうち85組(3.6%)に均衡型転座がみられ、相互転座を持つ人は、診断後初回妊娠において63% (29/46組)が出産できました(文献28)。個々の患者さんがどれくらい流産するかを予測することはできません。転座している染色体の位置によって不均衡がどれくらい起こるかが違うからです。なお、9番逆位は正常変異であり流産とは関係しません。

流産をきっかけとして染色体均衡型転座が判明した場合、不均衡なお子さんは流産しますが、1.6-2.9%に妊娠継続する場合があります(文献26、27)。妊娠継続できたときに羊水検査によって染色体を調べることができます。

表5 染色体均衡型転座が原因の習慣流産患者の自然妊娠によるその後の出産率
均衡型相互転座 (47) Robertson型転座 (11) 正常染色体 (1184)
診断後初回妊娠 31.9% (15/47) 63.6% (7/11) 71.7% (849/1184)
累積生児獲得率 68.1% (32/47)

Sugiura-Ogasawara et al. Fertil Steril 2004

表6 染色体均衡型相互転座保因者の次回妊娠帰結
着床前遺伝学的検査 PGT-SR 自然妊娠
Chun KL Otani T Feyereisen Fischer J Fiorentino F Idowu D Kato K Sugiura M Stephenson M Japan 多施設 Franssen MTM
患者数 43 29 35 192 16 42 52 47 20 46 157
年齢 31.5 32.7 34.0 37.1 34 36.5 29.1 31.0
流産回数 3.4 3.1
分娩 14 17 5 60 7 14 40 15 13 29 131
出産率% 32.6 58.6 14.3 31.3 43.8 33.3 31.9 65.0 63.0
/採卵% 23.7 47.2 6.2 22.1 38.9 16.7
累積生児獲得率% 76.9
採卵4.6回
68.1 90.0 83.0
不均衡児の妊娠継続率% 2.9 1.6
Prenat Diagn 2004 RBM 2006 F&S 2007 F&S 2010 HR 2011 aCGH F&S 2015 SNP array JHG 2016 Robertson含む F&S 2004 HR 2006 JHG 2008 BMJ 2006